よく「インフルエンザワクチンの効果は?」とか「インフルエンザワクチンは接種する必要があるの?」、「毎年インフルエンザワクチンをうった方がいいの?」、「もうインフルエンザに罹っちゃったからワクチンは要らないよね」、「副作用が心配」、「卵アレルギーだから打てないよね」などの質問を受けます。インフルエンザは病気そのものも辛いのですが、さらに怖いのが合併症です。インフルエンザワクチンは発症率だけでなく、合併症も軽減させることが知られていて、今回はその話です。このワクチンの接種は任意ですが、効果を考えると、必ず打ったほうがよい人がはっきりしてきます。当ブログが皆様の参考になるとよいと思います。

1.インフルエンザとは

インフルエンザはインフルエンザウイルスを病原とする気道の感染症ですが、伝染力が強く重症化もしやすいので一般の「かぜ」とは分けて考える必要があります。一般にこの感染症は感染後1~2日潜伏した後突然38度を超える発熱を伴い発症し、頭痛、全身倦怠感、関節痛、筋肉痛などの強い全身症状をきたします。比較的早期に咳や痰などの呼吸器症状が現れて数日間症状が続きますが、通常は一週間以内に回復します。流行は周期的で、わが国では毎年11月下旬から始まり翌年の1月頃に患者数が増加し春にかけて減少します。流行の程度と時期はその年によって異なります。また、夏にもインフルエンザウイルスが分離されることもあります。このウイルスが猛威を振るう年にはインフルエンザ死病者数のみならず肺炎の死亡者数も増加し、さらに各種慢性疾患を患っている患者さん、特に高齢者の死亡者数も増加することで国民全体の死亡者数が増加することが明らかになっている怖い疾患です。 

2.インフルエンザの予防

インフルエンザ感染を防ぐためには人混みを避ける、患者さんとの接点を減らすことが肝心です。しかしながら社会生活を遮断するわけにはいかず、外出時にはマスクを着用し、帰宅時の手洗いなどで感染予防を行います。このようなこともある程度は効果がありますがウイルス感染そのものを完全に防ぐことはできません。インフルエンザ予防対策の中心は予防接種であることが世界的に広く受け入れられています。しかしながら、我が国ではワクチンに対する疑問や不信感を持っている人が多いのが現状です。インフルエンザワクチンは感染や発症そのものを完全には防御できませんが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されています。事実高齢者にワクチンを接種することで接種しなかった場合に比べ死亡の危険を五分の一に、入院の危険を半分未満に減少させることが知られています。また、現行ワクチンの安全性は極めて高いと評価されています。予防接種法による定期接種の場合、予防接種を受けたことによる健康被害であると厚生労働大臣が認定した場合には予防接種法による健康被害の救済処置の対象となりますし(予防接種健康被害救済制度)、任意接種についてもワクチンを適正に使用したにもかかわらず発生した副反応により健康被害が生じた場合は医薬品副作用救済制度または生物由来製品感染等被害救済制度の対象となります。

3.インフルエンザワクチンとは

生物には外から侵入する微生物などを排除すようとする免疫という仕組みがあります。ウイルス感染があるとそのウイルスを排除する働きを持った抗体を産生し、次に同じウイルスが入ってきた場合に速やかにそのウイルスを不活化、排除することが出来るようになります。この働きを利用したのがワクチンです。現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを有精卵(発育鶏卵)の呼吸などを行っている漿尿膜に接種して増殖させ、増殖したウイルスを分離しホルマリンなどを使って完全に不活化させ、エーテルなどで副反応を軽減させる処置をしたものです。

4.2018年のインフルエンザワクチン

インフルエンザウイルスは抗原性の違いからA,B,Cの3型に分けられ、またウイルス表面の糖タンパクに多数の亜型の組み合わせがあります。組み合わせを容易に変えていくためインフルエンザは毎年抗原性を変化させていきます。この仕組みで巧みにヒトの免疫機構から逃れて流行を繰り返しているのです。世界保健機関(WHO)は毎年世界での流行状況からどのタイプが流行るのかをが予測しています。それに基づいて国立感染症研究所での検討会議などで議論、予測して毎年のワクチンのタイプを決定しています。通常、厚生労働省がそれをふまえて認可した4価ワクチン1種類が接種されます。
今シーズン(2018/19)のインフルエンザワクチンは、
A型株から2系統
A/シンガポール/GP1908/2015(IVR-180)(H1N1)pdm09 ※昨年と同様
A/シンガポール/INFIMH-16-0019/2016(IVR-186)(H3N2)
B型株から2系統
B/プーケット/3073/2013(山形系統)※昨年と同様
B/メリーランド/15/2016(NYMC BX-69A)(ビクトリア系統)
の4系統で、2系統が昨年と異なる内容となっています。

5.インフルエンザワクチンと卵アレルギー

ワクチンの製造工程でウイルスの培養場所は漿尿膜の内側であることからもともと卵白や卵黄との直接の接触はありません。さらに、ウイルス分離の際に十分精製されるため卵の成分はほとんど残っていませんからアレルギーのリスクはほとんどありません。米国のアレルギー・喘息・免疫学会では2017年12月に卵アレルギーのある人でもインフルエンザワクチンの接種は安全で、接種前に卵アレルギーの有無を確認する必要もないとする診療指針を発表しています。ただ、本邦の予防接種ガイドラインによると「卵アレルギーが明確なものに対してのワクチン接種には注意が必要で、鶏卵、鶏肉にアナフィラキシーがあるものは接種を受けることが出来ない」と記載されています。以上をふまえて考えると卵アレルギーがあっても軽度な方はワクチンを躊躇する必要はないと思われます。ただ、加熱した卵でもアナフィラキシーを起こすような重篤な卵アレルギーの方はリスクを理解した上で十分対応な施設での接種が望ましいでしょう。

6.インフルエンザワクチンの効果

「ワクチンは効果がない」、「以前ワクチンをした年にインフルエンザに罹ったのでインフルエンザワクチンに意味がない」、「以前ワクチンをしたから今年は予防接種をしないでも大丈夫」、「今年はワクチンのタイプが外れているからワクチンは効かない」とおっしゃる方がよくみえます。しかしながら、インフルエンザワクチンはインフルエンザの予防として世界的に認められている科学的なものなのです。たしかに、ワクチンを接種する事でインフルエンザ感染やその発症を完全に阻止することはできません。またこのワクチンで普通のかぜを予防することは全くできません。しかしながらワクチン接種でインフルエンザ感染時の高熱などの症状を軽くし、合併症による入院や死亡を減らすことが出来ることが証明されているのです。わが国でのデータは乏しいのですが、米国では毎年のようにワクチンの効果を調べています。それによりますと、ワクチン接種によって65才未満の健常者についてはインフルエンザの発症を70~90%減らすことが出来、65才以上の一般高齢者では、肺炎やインフルエンザによる入院を30~70%減らすことが出来るとされています。老人施設の入居者についてはインフルエンザの発症を30~40%、肺炎やインフルエンザによる入院を50~60%、死亡する危険を80%減らすことが出来るとされています。つまり、高齢者や呼吸器疾患、心疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全状態などの基礎疾患をお持ちのかたはインフルエンザが重症化しやすいので、ワクチン接種による予防が世界各国で勧められています。また、そのような人の周囲にいる人やその他にインフルエンザによって具合が悪くなることを防ごうと思う人にもワクチン接種が望まれます。

7.インフルエンザワクチンはいつから打つのか?

インフルエンザの流行時期は例年12月~4月頃で、1月末から3月上旬にピークを迎えます。ワクチンを接種すると接種後1~2週後に抗体が上昇しはじめ1か月後までにはピークに達し、3か月から4か月後には徐々に低下して1年後にはほぼ元の抗体価まで下がっていくことがわかっています。ところで、8才未満の子供の場合は接種後1か月でも十分な抗体価を得ることが出来ない場合がありCDCの推奨でもワクチンは2回の接種が求められています。この場合1回目の予防接種はワクチンが手に入り次第出来るだけ早く接種し、2回目を10月終わりまでには受けることを勧めています。つまり小児は季節の出来るだけ早い時期にインフルエンザワクチンを打つことが大事なのです。その他の年齢での適切な接種時期は毎年インフルエンザのピークが異なる為はっきりはしていません。一般的には10月中の接種がよいとされていますが、12月以降の流行が始まった後の接種でも集団免疫の観点からは有効であると考えられています。

8.ワクチン接種を特にお勧めする人

インフルエンザは普通のかぜ(普通感冒)に比べて肺炎・気管支炎を併発することが多く時に入院を必要とするくらい重篤となる場合があります。さらに場合によっては死亡する危険性もあります。特に65才以上の高齢者、乳幼児、妊婦、年齢を問わず呼吸器系や循環器系に慢性疾患を持つ患者さん、糖尿病などの代謝性疾患の方、腎機能障害のある方、免疫低下状態の方などでは健常者に比べ死亡率が数倍から数百倍にもなる為ハイリスク群と呼んでいます。
この様なことをふまえて国では以下のような重症化しやすい人々を予防接種法に基づく定期のインフルエンザ予防接種の対象としています。
(1)65才以上の高齢者の方
(2)60~64才で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり身の回りの生活を極度に制限される方やヒト免疫不全ウイルスによる免疫障害があり日常生活がほとんど不可能な方(共に概ね身体障害者障害程度等級1級に相当する方)。
上記の定期接種対象者以外にもハイリスク群である乳幼児、妊婦、肺の病気、心臓の病気、糖尿病患者さん、腎臓の悪い方、その他抵抗力の落ちた方達にはインフルエンザワクチンの接種を強くお勧めします。それに加え医療介護関係の仕事に従事している方々や幼稚園の先生や保育園の保育士さん、学校の教師、不特定多数との接触が多いサービス業の方々などは感染のリスクが高く、また、感染した場合他人に伝播させる可能性も高いためインフルエンザワクチンの接種をした方がよいでしょう。

9.まとめ

ワクチンでインフルエンザの発症を100%なくすことはありませんが、発症率を下げ、合併症を減らすことはわかっています。上記に記載したワクチン接種が推奨されている方はワクチン入手後出来るだけ早い時期に接種されることをお勧めします。

参考文献:

国立感染症研究所

厚生労働省

アメリカ疾病予防管理センター